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夢から覚めたと思ったら、まだ夢の途中でした。
と思ったら、現実でした。
という夢を見た朝。
昨日よりもずっと冷え込んだ、冬の朝でした。
手を伸ばして、目覚まし時計を見ようとしたら、
そこにあったのは、単なる世界恐慌でした。
華やかな数字の渦が、血の色のように美しく輝く朝でございました。
夢かと思ったら、やっぱり夢でした。
と思ったら、やっぱり現実でした。
そんな夢を見たのです。
トーストくらい食べてから家を出ようと思ったので、
冷蔵庫を開けて、マーガリンを取りだしたら国が滅びかけていました。
よく煮込んだチリ・ビーンズよりも美味しそうな定額給付金が腐ってました。
という夢を見たと思ったら、やっぱり夢でした。
まだベッドの中で、うつらうつらとしていました。
そんな夢が覚めたら、新しい明日がくるのでしょうか。
と思ったら、現実でした。
だから私はタバコを吸いました。
ゆっくりと昇っては消えていく煙を眺めていたら、
年金問題を他人事に考えている獣が通り掛ったのです。
獣が言いました。
「自分の身は自分で守れ」と。
そんな夢を見ました。
私はその獣をダシにスープを作ったら、さぞや美味しいだろうと想像しました。
楽しかったです。
と思ったら、現実でした。
という夢を見た朝。
昨日よりもずっと冷え込んだ、冬の朝でした。
手を伸ばして、目覚まし時計を見ようとしたら、
そこにあったのは、単なる世界恐慌でした。
華やかな数字の渦が、血の色のように美しく輝く朝でございました。
夢かと思ったら、やっぱり夢でした。
と思ったら、やっぱり現実でした。
そんな夢を見たのです。
トーストくらい食べてから家を出ようと思ったので、
冷蔵庫を開けて、マーガリンを取りだしたら国が滅びかけていました。
よく煮込んだチリ・ビーンズよりも美味しそうな定額給付金が腐ってました。
という夢を見たと思ったら、やっぱり夢でした。
まだベッドの中で、うつらうつらとしていました。
そんな夢が覚めたら、新しい明日がくるのでしょうか。
と思ったら、現実でした。
だから私はタバコを吸いました。
ゆっくりと昇っては消えていく煙を眺めていたら、
年金問題を他人事に考えている獣が通り掛ったのです。
獣が言いました。
「自分の身は自分で守れ」と。
そんな夢を見ました。
私はその獣をダシにスープを作ったら、さぞや美味しいだろうと想像しました。
楽しかったです。
「すいません」
「いらっしゃいませ」
「これ買ってもらえますか?」
「・・・何ですか? これは」
「天使のゲロです」
「え?」
「天使のゲロです」
「・・・何ですか? 天使のゲロ?」
「そうです」
「いや、だから、天使のゲロって何ですか?」
「何って? だから、これです」
「これは・・・え・・・何ですか? 天使のゲロ?」
「・・・? 天使を知りませんか?」
「いや、もちろん天使は知ってますけど」
「じゃあ、ゲロを知らないんですか?」
「知ってます」
「なんだ。じゃあ、それです」
「・・・それとは?」
「だから、天使のゲロです」
「これが?」
「それが」
「えーと、つまり、これは天使のゲロですか?」
「はい。それは天使のゲロです」
「・・・」
「買ってもらえます?」
「売るんですか?」
「え、買ってもらえるんですか?」
「いや、売ろうと思うんですか?」
「ダメですか?」
「というか、売れるんですか?」
「知りません。だから、それを聞いているんです」
「私に?」
「貴方に」
「えーっと、つまり貴方はこれが必要ではないんですよね?」
「これというのは」
「天使のゲロです」
「はい。私は天使のゲロは必要ではありません」
「そうですよね」
「だから売りに来てるんです」
「そうですよね」
「買ってもらえますか?」
「いや、その前に、誰か必要としているんですか?」
「何をですか」
「だから、天使のゲロです」
「さぁ。それは知りません。少なくとも、私には不要のものです」
「そうですよね。私にも不要の物のように感じます」
「ここは質屋ですよね?」
「そうですよ」
「貴方が必要なものしか置いていないお店なんですか?」
「違いますけど」
「つまり貴方自身が必要かそうでないかは、今関係ありませんよね?」
「関係ないですね」
「じゃあ、買ってください」
「いや、話はそんなに単純ではありません」
「なぜですか?」
「だってこれ、ゲロでしょ?」
「ゲロですよ」
「ゲロって・・・・誰も要りませんよね?」
「でも天使のですよ」
「天使のかも知れませんけど」
「天使のだったら欲しい人いるでしょう?」
「でもそういう貴方は要らないんでしょう?」
「はい」
「なぜ、要らないんですか?」
「使い道がありません」
「そうですよね」
「少なくとも私には、という意味ですけど」
「おそらく誰にとっても使い道は無いと思いますよ」
「なぜそう言い切れるんですか?」
「だって私は天使ですよ?」
「はい」
「天使に対して、天使のゲロの価値を押し付けても、つまり単なるゲロですからね」
「やっぱりそうですかね」
「せめて悪魔のゲロなら少しは価値もありますけど」
「そうですよね」
「貴方、悪魔でしょう?」
「はい」
「貴方のゲロならば」
「やめてくださいよ」
「なぜです?」
「普通、自分のゲロなんて人に売れるわけないじゃないですか。気持ち悪い」
「そうですよね」
「変態じゃあるまいし」
「失礼しました」
「やっぱり悪魔の店のほうに売りにいきます」
「最初からそうして下さい」
「いらっしゃいませ」
「これ買ってもらえますか?」
「・・・何ですか? これは」
「天使のゲロです」
「え?」
「天使のゲロです」
「・・・何ですか? 天使のゲロ?」
「そうです」
「いや、だから、天使のゲロって何ですか?」
「何って? だから、これです」
「これは・・・え・・・何ですか? 天使のゲロ?」
「・・・? 天使を知りませんか?」
「いや、もちろん天使は知ってますけど」
「じゃあ、ゲロを知らないんですか?」
「知ってます」
「なんだ。じゃあ、それです」
「・・・それとは?」
「だから、天使のゲロです」
「これが?」
「それが」
「えーと、つまり、これは天使のゲロですか?」
「はい。それは天使のゲロです」
「・・・」
「買ってもらえます?」
「売るんですか?」
「え、買ってもらえるんですか?」
「いや、売ろうと思うんですか?」
「ダメですか?」
「というか、売れるんですか?」
「知りません。だから、それを聞いているんです」
「私に?」
「貴方に」
「えーっと、つまり貴方はこれが必要ではないんですよね?」
「これというのは」
「天使のゲロです」
「はい。私は天使のゲロは必要ではありません」
「そうですよね」
「だから売りに来てるんです」
「そうですよね」
「買ってもらえますか?」
「いや、その前に、誰か必要としているんですか?」
「何をですか」
「だから、天使のゲロです」
「さぁ。それは知りません。少なくとも、私には不要のものです」
「そうですよね。私にも不要の物のように感じます」
「ここは質屋ですよね?」
「そうですよ」
「貴方が必要なものしか置いていないお店なんですか?」
「違いますけど」
「つまり貴方自身が必要かそうでないかは、今関係ありませんよね?」
「関係ないですね」
「じゃあ、買ってください」
「いや、話はそんなに単純ではありません」
「なぜですか?」
「だってこれ、ゲロでしょ?」
「ゲロですよ」
「ゲロって・・・・誰も要りませんよね?」
「でも天使のですよ」
「天使のかも知れませんけど」
「天使のだったら欲しい人いるでしょう?」
「でもそういう貴方は要らないんでしょう?」
「はい」
「なぜ、要らないんですか?」
「使い道がありません」
「そうですよね」
「少なくとも私には、という意味ですけど」
「おそらく誰にとっても使い道は無いと思いますよ」
「なぜそう言い切れるんですか?」
「だって私は天使ですよ?」
「はい」
「天使に対して、天使のゲロの価値を押し付けても、つまり単なるゲロですからね」
「やっぱりそうですかね」
「せめて悪魔のゲロなら少しは価値もありますけど」
「そうですよね」
「貴方、悪魔でしょう?」
「はい」
「貴方のゲロならば」
「やめてくださいよ」
「なぜです?」
「普通、自分のゲロなんて人に売れるわけないじゃないですか。気持ち悪い」
「そうですよね」
「変態じゃあるまいし」
「失礼しました」
「やっぱり悪魔の店のほうに売りにいきます」
「最初からそうして下さい」
その晩、
某企業のシステムに侵入した男の右手には、明らかに青海苔が付いていた。
そのビルの入館用カードキーは、組織の人間から渡されていた。
入手は随分と簡単だったらしい。もともとのセキュリティレベルが低いのか。
それとも、最重要機密のセキュリティにだけは、絶対の自信があるが故の余裕なのか。
確かに男が目当てのデータに辿り着けたのは、潜入から2時間も経ってからのことだった。
しかし、男の指には青海苔が付いていた。
男はある地下組織のスパイだった。平たく言えば、暴力団関係の情報屋。
近頃はどこにいっても、パソコン、端末、インターネット。
まだまだ時代に取り残されたオヤジ連中が取り仕切るヤクザの世界では、
ちょっとその手の専門知識があれば重宝される存在。
それでも、男のハッキングのレベルは、この界隈では5本の指に入っていた。
(もちろん青海苔が付いていない指だ)
(男の指には青海苔が付いていたが)
男には、恋人がいた。
恋愛関係と呼ぶには、だらしの無い関係。
お互いが求めるときだけ抱き合って、あとはそれぞれ好き勝手に生きている。
男は馴れ合いを嫌ったし、女も束縛を嫌った。
それでも愛情と呼べるものがあったからこそ、危ない仕事の前には決まって男は女を抱いた。
そんな時、女はいつも同じ台詞を男に囁く。
「今度会う時は、もっと笑ってね?」
男は聞こえなかった振りをして、黙って衣服を着込んでいく。
青海苔の付いていない指で、ボタンを掛けていく。
女の指に青海苔は付いていなかったが、女はタバコに手を伸ばす。
不自由に吐き出した煙の中で、男の背中を黙って見つめる。
そんな男が今パソコンの前で、機密データをコピーしている。
その指に青海苔を付けて。
−数分後、
やってくる集団に男は拉致され、とある倉庫に監禁される事となるのだが、
今の男にはそんな悲しい未来は想像できない。
今回の報酬で、彼女との関係にケジメを付ける為、少し洒落た指輪でも買ってやるかと。
こんなの似合わないよ、なんて言いながらも、嬉しそうな彼女の顔が見れるかなと。
青海苔の付いていない指で、彼女の指(もちろん青海苔は付いていない)にはめてやるリングは、いつもより重く感じるだろうかと。
そんな事を想像する。
その男の最後の仕事。
キーボードに乗せた指(青海苔がついています)は、いつもより軽快にキーを叩いた。
夜は更けていく。
某企業のシステムに侵入した男の右手には、明らかに青海苔が付いていた。
そのビルの入館用カードキーは、組織の人間から渡されていた。
入手は随分と簡単だったらしい。もともとのセキュリティレベルが低いのか。
それとも、最重要機密のセキュリティにだけは、絶対の自信があるが故の余裕なのか。
確かに男が目当てのデータに辿り着けたのは、潜入から2時間も経ってからのことだった。
しかし、男の指には青海苔が付いていた。
男はある地下組織のスパイだった。平たく言えば、暴力団関係の情報屋。
近頃はどこにいっても、パソコン、端末、インターネット。
まだまだ時代に取り残されたオヤジ連中が取り仕切るヤクザの世界では、
ちょっとその手の専門知識があれば重宝される存在。
それでも、男のハッキングのレベルは、この界隈では5本の指に入っていた。
(もちろん青海苔が付いていない指だ)
(男の指には青海苔が付いていたが)
男には、恋人がいた。
恋愛関係と呼ぶには、だらしの無い関係。
お互いが求めるときだけ抱き合って、あとはそれぞれ好き勝手に生きている。
男は馴れ合いを嫌ったし、女も束縛を嫌った。
それでも愛情と呼べるものがあったからこそ、危ない仕事の前には決まって男は女を抱いた。
そんな時、女はいつも同じ台詞を男に囁く。
「今度会う時は、もっと笑ってね?」
男は聞こえなかった振りをして、黙って衣服を着込んでいく。
青海苔の付いていない指で、ボタンを掛けていく。
女の指に青海苔は付いていなかったが、女はタバコに手を伸ばす。
不自由に吐き出した煙の中で、男の背中を黙って見つめる。
そんな男が今パソコンの前で、機密データをコピーしている。
その指に青海苔を付けて。
−数分後、
やってくる集団に男は拉致され、とある倉庫に監禁される事となるのだが、
今の男にはそんな悲しい未来は想像できない。
今回の報酬で、彼女との関係にケジメを付ける為、少し洒落た指輪でも買ってやるかと。
こんなの似合わないよ、なんて言いながらも、嬉しそうな彼女の顔が見れるかなと。
青海苔の付いていない指で、彼女の指(もちろん青海苔は付いていない)にはめてやるリングは、いつもより重く感じるだろうかと。
そんな事を想像する。
その男の最後の仕事。
キーボードに乗せた指(青海苔がついています)は、いつもより軽快にキーを叩いた。
夜は更けていく。
俺は死ぬのかもしれない。
奇病。
もはや、そう表現するしか無いだろう。
全身の毛穴が開く。
全身に無数にある毛穴の全てが、環境や意思に反して開く。
最初に気付いたときは、直径1mm程度。 それはすぐに1センチ程に達した。
すでに手遅れだったのだろうか。今では、直径が1メートルを越している。
毛穴はその後もどんどん広がっていく。
俺はもう駄目かもしれない。
俺の毛穴に、水溜りが出来始めた。
本当にもう駄目かもしれない。
俺の毛穴に、ちょっとした海が出来ていた。
もう駄目だ。
俺の毛穴に、昆虫や鳥類が住み始めた。
毛穴はどんどん広がっていく。
本当にもう駄目?
俺の毛穴に、食物連鎖が出来上がり始めた。
ああ、やっぱり駄目だ。
俺の毛穴に、知的生命体が社会を形成し始めた。
もはや、どこからどこまでが毛穴なのか分からない。
何が自分の身体なのか分からない。
お前らは俺の穴に住んでいるのか?
穴は俺なのか? その空間は、俺ではない何かなのか?
パレードが始まって
大きな花火が鳴り響く。
さようなら。俺。
死とは何だ?
奇病。
もはや、そう表現するしか無いだろう。
全身の毛穴が開く。
全身に無数にある毛穴の全てが、環境や意思に反して開く。
最初に気付いたときは、直径1mm程度。 それはすぐに1センチ程に達した。
すでに手遅れだったのだろうか。今では、直径が1メートルを越している。
毛穴はその後もどんどん広がっていく。
俺はもう駄目かもしれない。
俺の毛穴に、水溜りが出来始めた。
本当にもう駄目かもしれない。
俺の毛穴に、ちょっとした海が出来ていた。
もう駄目だ。
俺の毛穴に、昆虫や鳥類が住み始めた。
毛穴はどんどん広がっていく。
本当にもう駄目?
俺の毛穴に、食物連鎖が出来上がり始めた。
ああ、やっぱり駄目だ。
俺の毛穴に、知的生命体が社会を形成し始めた。
もはや、どこからどこまでが毛穴なのか分からない。
何が自分の身体なのか分からない。
お前らは俺の穴に住んでいるのか?
穴は俺なのか? その空間は、俺ではない何かなのか?
パレードが始まって
大きな花火が鳴り響く。
さようなら。俺。
死とは何だ?
彼の名前はドミトリー。旧型のアンドロイドだ。
見た目は悪い。しかし知能だけは非常に優れている。
作成当時、
機械工学の分野に比べ、情報技術の発達が遥かに進んでいた現実が生んだ、
アンバランスな試作機だ。
彼の名前はドミトリー。
「ねぇねぇ、ドミトリー?」
「・・・・・」
「ドミトリーってば?」
「・・・なんだよ、うるせぇな」
「ちょっと質問があるんだけど。 人類はどうして生まれてきたのさ?」
「・・・はぁ? そんな事、知らねぇよ。 ・・・あのなぁ、仕事の邪魔なんだよ。このクソガキが」
「ねぇ、ドミトリーはどう思うのさ? 教えてよ」
「ちっ、早く帰れよ。人類が生まれてきた事に理由なんてねぇよ。たまたまだよ。たまたま。神も悪魔もいねぇの。天国と地獄だって無ぇんだよ。分かったらさっさと帰れ!」
「うわぁ。本当にドミトリーは物知りだなぁ」
「うるせぇんだよ・・・。それとなぁ、何度も言うけど、俺は人間だからな!」
「ドミトリーは人間なの?」
「ああ、そうだよ! 人間だから、ちゃんと仕事しないと食べていけねぇんだよ!だから邪魔すんな!」
「そうかー。ドミトリーは人間なのかー」
「ほらほら。さっさとどっか行けよ!」
「あ、三枝主任、アイツ本当に何とかして下さいよ。仕事の邪魔なんですよ」
「工藤君か。お疲れ様。 どうした。ご機嫌斜めじゃないか」
「あのアンドロイド、本当に邪魔ばっかりしてきやがって!」
「まぁしょうがないだろう。淋しがり屋なんじゃないか? 相手してやれよ」
「相手してやるのは良いんですけどね。 せめて俺の事を 『ドミトリー』って呼ぶのは止めて欲しいんすよね」
「あっはっは! 光栄じゃないか。世界的に有名なアンドロイドの名前で呼んで貰えて」
「有名って言ったって・・・。所詮、試作機でしょう?」
「確かに試作機だけどね」
「本当、調子狂うんだよなぁ。 なんでわざわざ自分の名前で、俺を呼ぶんだろう?」
「さぁね。アンドロイドの考えていることは、我々には分からないよ。ひょっとして工藤君は、彼に気に入られているんじゃないのか?」
「ええ? 機械に気に入られたって・・・迷惑っすよ。」
「あはは、そんなこと言うなよ。」
「三枝主任は、ヤツとは付き合いが長いんでしょう?」
「そうだねぇ。僕は・・・どれくらいになるのかな」
「とにかく、仕事の邪魔だけは勘弁してもらいたいっすね」
「分かった分かった。僕の方からも、それとなく言っておくよ」
「あ、武藤局長。こんにちは」
「おお、三枝君。お疲れ様。 ん・・・どうしたんだ? 浮かない顔して」
「いえ別に。大した事では無いんですが・・・」
「ひょっとして・・・工藤君の事かね?」
「ええ・・・」
「君も、さぞ辛い立場だろう」
「はい・・・そうですね・・・。少なくとも、自分がアンドロイドだということには気付いていないようですけど」
「そうか。君の提案通り、工藤君には、話し相手の『マモル君』をそばにつけたのが正解だったのかも知れん」
「ええ。彼にとってはそれが一番良い事だと・・・今でも信じていますが」
「まぁ、元気を出して、君も頑張ってくれよ」
「はい。御心配をお掛けして申し訳ありませんでした」
「三枝君・・・。悩み事があったならば、本当に何でも言ってくれたまえよ?」
「はい、お気遣い有難うございます。 ・・・では、失礼します」
「はぁ・・・」
「おやおや、どうしたの? 武藤局長!」
「ああ、マモル君か。 ・・・いや、嘘をつくというのは、本当に辛いものだよ」
「嘘?」
「ああ。・・・例え相手がアンドロイドだとしてもね」
「三枝主任の事?」
「そうだ。彼は、本当に優秀だ。本当に・・・素晴らしいことなんだが」
「局長は辛いの? 辛いんだ! それが”心”っていうやつだね! すごいや!」
「あはは。そうだな。しかし、『ドミトリー』は本当に素晴らしいアンドロイドだ。見た目こそ悪いが、知能だけは人間と全く変わらない。辛いことがあればちゃんと落ち込むし、罪悪感だってある」
「でもね! 『ドミトリー』は人間なんだって! 教えて貰ったよ!」
「『ドミトリー』は人間・・・か」
「そうだよ! 『ドミトリー』は人間だよ!」
「・・・マモル君」
「ねぇねぇ、ドミトリー!」
「なんだよ、しつけぇな! 俺は忙しいんだよ!」
「君は優秀だね! 僕はそう思うよ!」
「はいはい、どうもありがとうございました。ほらほら、邪魔だよ」
見た目は悪い。しかし知能だけは非常に優れている。
作成当時、
機械工学の分野に比べ、情報技術の発達が遥かに進んでいた現実が生んだ、
アンバランスな試作機だ。
彼の名前はドミトリー。
「ねぇねぇ、ドミトリー?」
「・・・・・」
「ドミトリーってば?」
「・・・なんだよ、うるせぇな」
「ちょっと質問があるんだけど。 人類はどうして生まれてきたのさ?」
「・・・はぁ? そんな事、知らねぇよ。 ・・・あのなぁ、仕事の邪魔なんだよ。このクソガキが」
「ねぇ、ドミトリーはどう思うのさ? 教えてよ」
「ちっ、早く帰れよ。人類が生まれてきた事に理由なんてねぇよ。たまたまだよ。たまたま。神も悪魔もいねぇの。天国と地獄だって無ぇんだよ。分かったらさっさと帰れ!」
「うわぁ。本当にドミトリーは物知りだなぁ」
「うるせぇんだよ・・・。それとなぁ、何度も言うけど、俺は人間だからな!」
「ドミトリーは人間なの?」
「ああ、そうだよ! 人間だから、ちゃんと仕事しないと食べていけねぇんだよ!だから邪魔すんな!」
「そうかー。ドミトリーは人間なのかー」
「ほらほら。さっさとどっか行けよ!」
「あ、三枝主任、アイツ本当に何とかして下さいよ。仕事の邪魔なんですよ」
「工藤君か。お疲れ様。 どうした。ご機嫌斜めじゃないか」
「あのアンドロイド、本当に邪魔ばっかりしてきやがって!」
「まぁしょうがないだろう。淋しがり屋なんじゃないか? 相手してやれよ」
「相手してやるのは良いんですけどね。 せめて俺の事を 『ドミトリー』って呼ぶのは止めて欲しいんすよね」
「あっはっは! 光栄じゃないか。世界的に有名なアンドロイドの名前で呼んで貰えて」
「有名って言ったって・・・。所詮、試作機でしょう?」
「確かに試作機だけどね」
「本当、調子狂うんだよなぁ。 なんでわざわざ自分の名前で、俺を呼ぶんだろう?」
「さぁね。アンドロイドの考えていることは、我々には分からないよ。ひょっとして工藤君は、彼に気に入られているんじゃないのか?」
「ええ? 機械に気に入られたって・・・迷惑っすよ。」
「あはは、そんなこと言うなよ。」
「三枝主任は、ヤツとは付き合いが長いんでしょう?」
「そうだねぇ。僕は・・・どれくらいになるのかな」
「とにかく、仕事の邪魔だけは勘弁してもらいたいっすね」
「分かった分かった。僕の方からも、それとなく言っておくよ」
「あ、武藤局長。こんにちは」
「おお、三枝君。お疲れ様。 ん・・・どうしたんだ? 浮かない顔して」
「いえ別に。大した事では無いんですが・・・」
「ひょっとして・・・工藤君の事かね?」
「ええ・・・」
「君も、さぞ辛い立場だろう」
「はい・・・そうですね・・・。少なくとも、自分がアンドロイドだということには気付いていないようですけど」
「そうか。君の提案通り、工藤君には、話し相手の『マモル君』をそばにつけたのが正解だったのかも知れん」
「ええ。彼にとってはそれが一番良い事だと・・・今でも信じていますが」
「まぁ、元気を出して、君も頑張ってくれよ」
「はい。御心配をお掛けして申し訳ありませんでした」
「三枝君・・・。悩み事があったならば、本当に何でも言ってくれたまえよ?」
「はい、お気遣い有難うございます。 ・・・では、失礼します」
「はぁ・・・」
「おやおや、どうしたの? 武藤局長!」
「ああ、マモル君か。 ・・・いや、嘘をつくというのは、本当に辛いものだよ」
「嘘?」
「ああ。・・・例え相手がアンドロイドだとしてもね」
「三枝主任の事?」
「そうだ。彼は、本当に優秀だ。本当に・・・素晴らしいことなんだが」
「局長は辛いの? 辛いんだ! それが”心”っていうやつだね! すごいや!」
「あはは。そうだな。しかし、『ドミトリー』は本当に素晴らしいアンドロイドだ。見た目こそ悪いが、知能だけは人間と全く変わらない。辛いことがあればちゃんと落ち込むし、罪悪感だってある」
「でもね! 『ドミトリー』は人間なんだって! 教えて貰ったよ!」
「『ドミトリー』は人間・・・か」
「そうだよ! 『ドミトリー』は人間だよ!」
「・・・マモル君」
「ねぇねぇ、ドミトリー!」
「なんだよ、しつけぇな! 俺は忙しいんだよ!」
「君は優秀だね! 僕はそう思うよ!」
「はいはい、どうもありがとうございました。ほらほら、邪魔だよ」
少年が辿り着いた国は、
大きな木靴を履いた王様が治める国で、
みんながあまりにもその木靴を羨ましがるものだから、
ええい、自分も作ってしまえと、
三日三晩寝ないで少年がこしらえた木靴は、
王様のそれよりずっと美しくピカピカの木靴になりました。
さっそくとばかりに、その靴を履いて街を歩いていたら、
たまたま街を訪れていた王様がつかつかと近寄ってきて、
どうか自分の靴と交換してほしいと頼まれました。
少年はとても誇らしげに思い、 「ええ、かまいませんよ」と告げ、
作りたての木靴と王様の木靴を交換したとき、
それまで王様が履いていた靴は木靴ではなく、
キャラメルで出来た靴だということに気付きました。
ああ、だまされた、と少年は憤慨しましたが、
別に王様は最初から自分の靴を木靴だとは言ってなかったし、
むしろ木製の靴よりも、甘いキャラメルの方が素敵だよなと思い直し、
試しに一口そのキャラメルを舐めてみると、
実はキャラメルではなく、普通の茶色いゴムでした。
ああ、だまされた、と少年は憤慨しましたが、
これがキャラメルだと勝手に勘違いしたのは自分だったし、
もうゴムでもいいやと諦めて片足を履いたその時、
実はやっぱり木靴であったと気付いたので、
なんかすげぇ損した気分になりましたとさ。
大きな木靴を履いた王様が治める国で、
みんながあまりにもその木靴を羨ましがるものだから、
ええい、自分も作ってしまえと、
三日三晩寝ないで少年がこしらえた木靴は、
王様のそれよりずっと美しくピカピカの木靴になりました。
さっそくとばかりに、その靴を履いて街を歩いていたら、
たまたま街を訪れていた王様がつかつかと近寄ってきて、
どうか自分の靴と交換してほしいと頼まれました。
少年はとても誇らしげに思い、 「ええ、かまいませんよ」と告げ、
作りたての木靴と王様の木靴を交換したとき、
それまで王様が履いていた靴は木靴ではなく、
キャラメルで出来た靴だということに気付きました。
ああ、だまされた、と少年は憤慨しましたが、
別に王様は最初から自分の靴を木靴だとは言ってなかったし、
むしろ木製の靴よりも、甘いキャラメルの方が素敵だよなと思い直し、
試しに一口そのキャラメルを舐めてみると、
実はキャラメルではなく、普通の茶色いゴムでした。
ああ、だまされた、と少年は憤慨しましたが、
これがキャラメルだと勝手に勘違いしたのは自分だったし、
もうゴムでもいいやと諦めて片足を履いたその時、
実はやっぱり木靴であったと気付いたので、
なんかすげぇ損した気分になりましたとさ。
目を閉じると、瞼の裏側に、真っ青な海が広がる。
幼少時代を過ごした島の生活から一変して、
乾いた大都会に住みついた僕の細胞にも、
未だに潮の香りが染み付いていたんだ。
でも無力だった。
ひたすらに無力だった。
例え自分が不幸になろうとも、
周りの人達を幸せにしたいと心から願っても、
結局、独りよがりで救いようのない自己陶酔。
不幸の輪廻からは抜け出せないまま、
今日も誰かに疎まれながら、
希望をまたひとつ粉々に砕き、心の墓場に埋め立てる。
でも目を閉じると、瞼の裏側には、真っ青な海が広がる。
泣きたいくらいに辛くても、
死にたいくらいに無気力でも、
いつでも故郷は、僕の中に息づいている。
そう思うと救われた。
いつでも見守っていてくれている。
ずっとそう思ってた。
そう思っていたんだ。
でも、違った。
瞼の裏側に、青海苔が付いていただけだったんだ。
ただ大量に、青海苔が付いていただけだったんだよ。
今日、それを取った。
僕の故郷はもう無い。
僕の故郷はもう無い。





